『音楽表現学』目次と要旨一覧

音楽表現学 Vol. 15

【原著論文】

牧野 広樹

フリッツ・イェーデの音楽観における共同性

—共同の音楽実践とその目的設定をめぐって—

【要旨】 本稿では、ドイツの音楽教育家フリッツ・イェーデ(Fritz Jöde, 1887–1970)の音楽観にみられ る共同性のあり方を、彼の著作にみられる「共在(Beieinander)」と「統一性(Einheit)」という二つの 語をもとに考察する。「共在」の位相における音楽表現の目的は、音楽実践を契機として、様々な人々が集い、 対話が生まれることにあった。この位相は、多様性を重視するポリフォニー的思考によって成り立ってお り、いわゆる今日のコミュニティアート的実践に類似する点が多く見受けられる。一方、「統一性」の位相 では、まずドイツ民族の統合が目的として設定され、ドイツ民族の一体化と同化を進めるための求心力と して、音楽表現の目的が規定された。イェーデが共同の音楽表現に求めたこの二つの異なる目的は、音楽 表現の目的意識に関して、われわれの認識に今なお再考を迫るものであるように思われる。

キーワード:フリッツ・イェーデ、共同の音楽実践、ポリフォニー、一体感、音楽表現の目的

【原著論文】

鈴木 慎一朗

岡山大学教育学部のオペラ公演の背景

—水野康孝の生涯にみる軌跡—

【要旨】 本稿の目的は、水野康孝の生涯を声楽家ならびに音楽教員としての実績から検討することにより、 岡山大学でのオペラ公演の立ち上げの背景を明らかにすることである。具体的には第一に岡山大学でのオ ペラ公演の実態を概観する。第二に水野の生涯に関して声楽家と音楽教員の側面から考察し、日本語のオ ペラ公演に至った背景を追求する。岡山大学教育学部では、新制大学最初の卒業生を輩出した1953(昭和 28)年、演奏会形式で歌劇「ファウスト」の発表を行い、1955(昭和30)年には歌劇「魔弾の射手」を 本格的なオペラで発表した。水野のオペラに対する情熱を高揚させた要因としては、1949(昭和24)年、 柴田睦陸らの尽力により、東京芸術大学に「オペラ研究部」が創設されたり、朝比奈隆と野口幸助らが中 心となり、「関西オペラグループ」(1954年、関西歌劇団と改称)が結成されたりといった動向があった。 また、彼らと戦前からのつながりがあったため、水野は楽譜やオペラに関する情報ををはじめとして、岡 山大学のオペラ公演に向けての支援を得ることができた。

キーワード:水野康孝、オペラ公演、邦語歌唱運動、朝比奈隆、柴田睦陸

【評論論文】

澤田まゆみ

ピアノ曲《子供とおったん》にみる山田耕筰

— 初版における挿絵と詩文をてがかりに

【要旨】 山田耕筰の《子供とおったん》は、子どもを題材として書かれた山田の最初のピアノ曲である。 総合芸術を目指す文化的世相の中、楽劇や舞踊詩を多く生み出していた山田は、姉とその二人の子どもと の生活をとおして初めて平和な家庭の実在と、生活に基づいた芸術の存在を知りえてこの小品集を作曲し た。1917年大阪開成館からの初版では、斎藤佳三による挿絵と山田による詩文が添えられ、斎藤との芸術 的交友や甥や姪たちへの愛情が伝わってくる。《子供とおったん》は、当時山田が没頭していた舞踊詩とは 一線を画し、後の詩と音楽の融合による歌曲や童謡を中心とする創作期との間にあって、生活に基づいた 芸術の存在に気づいた山田の大きな感動と新たな創作活動に対するメッセージをわれわれに示している。

キーワード:山田耕筰、ピアノ曲、子ども、斎藤佳三、夕やけの唄

【評論論文】

寺内 大輔

ジョン・ゾーン《コブラ》はどのような〈ゲーム〉なのか

—奏者間のやり取りに着目した検討—

【要旨】 本稿は、アメリカの音楽家、ジョン・ゾーン(John Zorn 1953— )の代表作《コブラ(Cobra)》 (1984)を対象とし、その演奏行為に内在する〈ゲーム〉としての特質を考察する論文である。まず、〈ゲーム〉 としての特質が内在する音楽のなかで、《コブラ》以前にゾーン以外の作曲家によって作られた諸作品が持っ ていた特質を振り返る。次に、《コブラ》における奏者間のやり取りに着目した検討を行い、演奏の進行を 司る〈プロンプター〉が〈ゲーム〉を活性化させるためにトリックスターとしての性格を有していること を指摘し、また演奏者相互のやり取りが流動的な関係性のなかで展開していることを論じる。それをふまえ、 《コブラ》の演奏行為に含まれる〈ゲーム〉としての特質を4つの視点で考察する。最後に、〈ゲーム〉と しての《コブラ》が多様な側面を持っていること自体が、前述の《コブラ》以前に作られた諸作品には見 られなかった特質―面白さを生み出したと結論づける。

キーワード:ジョン・ゾーン、コブラ、集団即興演奏、ゲーム

【研究報告】

飯村 諭吉

昭和10(1935)年前後における小森宗太郎の小太鼓奏法とその練習法

—『打楽器教則本』(1933)及び『鼓笛隊指導書並教則本』(1938)の解読を通して—

【要旨】 本研究報告は、昭和10(1935)年前後に小森宗太郎(1900~1975)が考案した小太鼓奏法について、 『打楽器教則本』(1933)及び『鼓笛隊指導書並教則本』(1938)の解読を通して考察することを目的として いる。これらの教則本が出版された時期は、管打楽器に関する教則本は数多く出されたが、日本のオーケ ストラで活躍するティンパニストが教則本を出版するという試みは例を見ないものであった。各教則本の 内容を解読した結果、小森はいずれの教則本においても、初学者にも理解し易いように、「小太鼓の構え方」 から「ルーマン」に至るまで段階的に説明していることが明らかとなった。小太鼓の練習内容においては、 旧来の教則本には見られなかった演奏上の留意点として、撥を振る動作と同時に足踏みを開始することを 提示し、実際の歩行運動への応用を読者に促していることが確認された。

キーワード:小森宗太郎、小太鼓、教則本、鼓笛隊、新交響楽団

【研究報告】

小畠 エマ

「歌い−作り−聴く」ことで育つ無伴奏歌唱の力

-エドウィン・E ・ゴードンのMusic Learning Theoryに基づく乳幼児音楽教育者育成コースが与える示唆—

【要旨】  本稿の目的は、エドウィン・E・ゴードン(1927-2015)が創始した、全米を中心に広く実践さ れている音楽教育メソードの一つ「ミュージック・ラーニング・セオリー(Music Learning Theory:以下 略称MLT)」に基づく乳幼児音楽教育者育成コースを、筆者自身の参加体験を通して報告するとともに、日 本の保育者養成のための音楽教育への示唆を得ることにある。わが国の保育者養成における「音楽」では、 実習や採用試験で求められるピアノ弾き歌いの能力に注目が集まるが、幼稚園教育要領・保育所保育指針と 照らし合わせると、実際の保育現場ではピアノの能力よりむしろ無伴奏歌唱の力が必要とされるように読み 取れる。わが国の保育者の歌唱に関する問題意識によって、具体的な教材に基づく育成プログラムを探求す る中で、筆者はゴードンによるMLTに注目した。MLTでは「乳幼児はソングやリズムチャントを聴くこと から音楽の語彙を獲得する」ので、教師に求められるのは無伴奏歌唱で音楽を伝えるミュージシャンシップ である。本稿では、筆者の参加したMLT音楽教師育成コースにおいて、教会旋法を類型化したカデンツを基 にして、無伴奏で歌い・作り・子どもたちの耳を傾けさせる教材「ソング」について、示唆を得たことを報 告する。

キーワード:乳幼児音楽教育、保育者の歌唱力、無伴奏歌唱、教会旋法、エドウィン・E・ゴードン

【解説】

田中 昌司

演奏スキルを学習する脳内ネットワーク

キーワード:音楽、学習、記憶、大脳皮質、線条体

【第15 回(クロッシング)大会報告】

HP「大会のご案内」「過去の大会」をご覧下さい。

日本音楽表現学会 「会則」等諸規定