『音楽表現学』目次と要旨一覧

   要旨は目次の後に掲載しています。

音楽表現学 Vol. 7

【目次】

[評論論文]

長友  洋喜
コーネリウス・L・リードの声楽教育思想における「美しい歌唱」概念

 

[研究報告]

寺内 大輔
インターネットテレビ電話を利用した遠隔共演の特徴と可能性
─自由即興演奏コンサート「東京−広島 てりんぷろ Tel-impro」の報告を通して─

河本  洋一
音楽表現の新たな素材としての模倣音の探求
─非言語音による直接的模倣音のための発音器官の使い方─

長岡   功
楽器の差異がクラヴィーア作品の速度に及ぼす影響
─J. S. Bach作曲≪フランス組曲≫のチェンバロ演奏とピアノ演奏の比較研究─

香曽我部 琢
幼児が“音を介した表現”を生み出すに至る認知過程とその意義

谷村  宏子
自閉症児の音楽的行動の変容
─幼稚園における個別指導の実践を通して

 

[第7回(プロムナード in フォレスト)大会報告]

〈基調講演〉
星出 豊
音楽記号と音楽表現

〈シンポジウム〉
小畑 郁男・赤松林太郎・吉川 和夫・星出 豊
音楽創造における楽譜の意味

〈パネル・ディスカッション〉
奥 忍・石原 慎司・橋本 智明・村尾 忠廣
音楽における異文化受容─「世代」を切り口に

〈ワークショップ〉
星出   豊
・プッチーニの生涯と音楽表現
樫下 達也・村上 理恵・山名 敏之
・路線図作曲─音のつながり、つながる音─

〈研究発表〉
阿方   俊
・チェンバーインプロビゼーションの試み そのⅡ
─グレイソン・メソッドの名称由来と昭和音楽大学における実践報告─

鈴木 慎一朗
・障害理解社会の創成をめざす「音楽ワークショップ」─2008年度活動報告─

熊谷 百合子
・音楽教育における男女別クラスの達成度
─性別クラスにおける授業実施による理解力の伸長

渡辺  有美
・20世紀前半ラテンアメリカにおける「民族主義」の誕生と「民族的」表現

桂   博章
・身体運動を通した郷土の芸能の学習効果
―「踊りと囃子」「囃子」「映像資料」による指導の比較―

長岡   功
・楽器の差異がテンポに及ぼす影響について
─J. S. Bach作曲<フランス組曲>のチェンバロ演奏とピアノ演奏の比較研究─

澤田 まゆみ
・ヴィルヘルム・ケンプ編曲J. S. バッハ《コラール前奏曲「目覚めよ、とわれらに呼ばわる
「物見らの声」BWV645》の演奏にあたって
─原曲テキスト及び《カンタータBWV140》第4曲に基づく考察─

新山王 政和
・ピアノ音に対する管楽器と声によるピッチマッチング
—同一奏者による管楽器と発声を用いた実験の結果より—

香曽我部 琢
・幼児が生み出す音の意味を探る
—音をもとに遊びを解釈する“サウンド・エスノグラフィー”の試み—

今  由佳里
・大学生の音楽表現活動に関する一考察
—音楽を専門としない学生によるミュージカル公演開催までの軌跡を通して—

中村  滋延
・ゲーム世代の音楽表現—音楽メディアアートの制作を通して—

深井  尚子
・ピアノにおける第3のペダルについての考察
—洗練した音楽表現のためのペダル—

渡会  純一
・小学校音楽科教科書における音づくり教材の実践例
─5年ふしづくり教材における表現および記録方法についての一考察─

河本  洋一
・口などから発せられる模倣音による音楽表現の一考察
—技法の類型化と今後の可能性—

田島  孝一
・日本人に現れやすい演奏傾向と言語特性の関係—強弱アクセントとアウフタクトの視点から—

河村  義子
・ピアノ指導についての一考察—個性を育て、成長を助ける指導を目指して 

小森  光紗
・ブルグミュラーを題材として創造性を養うための研究—保育者養成課程でのピアノ指導を通して—

村岡 哲至・橋本 智明
・空間における表現者と観客、観客同士の関係性
—ミュージカル上演空間の差異による観客の「一体感」の考察—

寺内  大輔
・インターネットテレビ電話を利用した遠隔共演の試み
—自由即興演奏コンサート「東京ー広島 てりんぷろ Tel-impro」の報告—

柴田  貴子
・鑑賞活動において、音や音楽を形づくっている要素を聴き取ることをめざした手だて
—耳トレの実践とその結果にもとづいて—

小島  千か
・音楽鑑賞時の視覚的イメージとその言語表現—大学での授業実践を通して—

中嶋  俊夫
・イタリアの舞台表現教育の動向と創意—ロンバルディア州の取り組みを中心に—

日本音楽表現学会会則

日本音楽表現学会編集委員会規程

日本音楽表現学会機関誌『音楽表現学』投稿規定

注及び引用文献の記載方法例

成果発表・研究会関係細則

経費関係細則

編集後記

 

【論文の要旨】

コーネリウス・L・リードの声楽教育思想における「美しい歌唱」概念

長友 洋喜

【要 旨】 現代における声楽教育研究では、発声の音質評価に関する音響学的アプローチが多様に試行されてきた。しかし、こうした音響学による分析と 声楽教育実践での音質評価とは、いかなる関係にあるのだろうか。この問いに答えるためには、声楽教育の実践者らが発声の音質評価に関していかに論じて いるのかを分析することによって、実践における評価基準を再考することが求められる。そこで本稿は、コーネリウス・L・リードの声楽教育に着目した。従 来、リードの声楽教育に関しては、主に音響学的分析、或いは実践方法の有効性を検証する研究がなされてきた。それに対し本稿はリードの「美しい歌唱」 の概念に関する記述を取り上げ、同時代の声楽教育研究の動向を考慮しつつ解釈検討した。その結果、リードの主張する「美しい歌唱」とは、発声の結果と しての音質が「美学」的であるのみならず、その発声過程の「技術」が適正であることをも要求するものであることがわかった。そしてその「技術」評価の 方策は、音響学的分析ではなく「機能的な聞き取り」であるとされていた。以上の考察から、リードが、教育実践での評価基準について音響学的分析結果と は別に、独自に規定しうるものと捉えていたことが明らかとなった。

キーワード:声楽教育、音質評価、コーネリウス・L・リード

 

 

インターネットテレビ電話を利用した遠隔共演の特徴と可能性
─自由即興演奏コンサート「東京−広島 てりんぷろ Tel-impro」の報告を通して─

寺内 大輔

【要 旨】 2008年6月29日、広島県呉市の多目的スペース「Plan U」で、自由即興演奏コンサート「東京−広島 てりんぷろ Tel-impro」が開催された。私が 企画、出演したこのコンサートは、会場である「Plan U」と、東京都の音楽家、尾上祐一の自宅「尾上スタジオ」とをインターネットテレビ電話で繋ぎ、そ れぞれの場所にいる出演者(音楽家とダンサー)が、リアルタイムで遠隔共演を行うというコンサートである。インターネットテレビ電話を利用した遠隔共 演には、「通信によって音声の伝達に時間差が生じる」「それぞれの場所によって演奏結果が異なる」といった、通常の共演にはない特徴がある。本稿では 、「東京−広島 てりんぷろ Tel-impro」の報告を通して、インターネットテレビ電話を利用した遠隔共演の特徴を挙げ、それらが自由即興演奏にどのような 影響をもたらすかを考察する。また、今後の遠隔共演の持つ様々な可能性についても述べる。

キーワード:自由即興演奏、インターネットテレビ電話、遠隔共演

音楽表現の新たな素材としての模倣音の探求
─非言語音による直接的模倣音のための発音器官の使い方─

河本 洋一

 

【要 旨】 ヒューマンビートボックスあるいは、ヴォーカルパーカッションと呼ばれる人たちが演奏する非言語音による「直接的模倣音」を含む音楽は、 すでに一つの音楽ジャンルを形成していると言えよう。本論は、音楽表現の新たな素材としての可能性を秘めていながら、これまで殆ど研究対象となること が無かった、非言語音による「直接的模倣音」の音響的特徴を把握し、それを再現するための発音器官の使い方を探求する研究である。本論では、この非言 語音による「直接的模倣音」を調査・採取し、音響的特徴を分析した結果、「直接的模倣音」は「ノイズ音」「母音性の喪失」「特有の奏法」という三つの 構成要素によって形成されているという結論を得た。この三つの構成要素に対応する発音器官の使い方を探り、記述することを通して、特定ジャンルの技法 であった非言語音による「直接的模倣音」の発音法を一般的な演奏技法として捉えなおし、非言語音による「直接的模倣音」を音楽表現の新たな素材として 位置づけた。

キーワード:非言語音、模倣、ヒューマンビートボックス、ヴォーカルパーカッション、発音器官

楽器の差異がクラヴィーア作品の速度に及ぼす影響
─J.S.Bach作曲≪フランス組曲≫のチェンバロ演奏とピアノ演奏の比較研究─

長岡 功

【要 旨】 J. S.バッハの≪フランス組曲≫におけるピアノとチェンバロの演奏速度の差異を解析した。「実験1」では、主要4舞曲である<アルマンド> <クラント> <サラバンド> <ジグ>について、ピアノとチェンバロによる市販CDの録音演奏の平均演奏速度を計測し、t検定で統計的差異を確認した。そ の結果、1番から6番の中で、<アルマンド> <クラント> <ジグ>についてピアノの方がチェンバロより有意に速い速度で演奏される曲の存在が確認さ れた。特に<アルマンド>でその傾向が顕著に見られ、演奏家による遅速の幅も大きかった。「実験2」では、ピアノを専門とする10人の奏者がピアノとチ ェンバロで同舞曲の一部を演奏しその録音を同じ手法で比較したが、有意差は確認できなかった。録音後に行ったインタビューのコメントでは、チェンバロ で<アルマンド>を演奏する際には速度を落とす方が良いとする意識が感じられた。最後に、この2つの実験結果をうけて、演奏速度の違いをもたらす要因と なる「アゴーギグ」や「アーティキュレーション」に注目しつつ、<アルマンド>の表現様式について考察した。

キーワード:J. S. Bach、フランス組曲、演奏速度、ピアノ、チェンバロ

幼児が“音を介した表現”を生み出すに至る認知過程とその意義

香曽我部 琢

【要 旨】 本研究は、遊びの中で生みだされる「音」に気付き、遊びの中の音を伴う表現を“音を介した表現”に発展させていくまでの幼児の認知過程に ついての研究である。ビデオ映像として収集された143の事例の分析の結果、最終的に、遊びにおいて幼児によって生み出される音は、(ⅰ)身体の動きによ って生み出される「音」、(ⅱ)社会的文脈の模倣という場面において使われる道具を介して生み出される「音」の2種に分類することができる。そして、幼 児の音を伴う表現が“音を介した表現”へと発展していくためには、自らが行っているa)活動への「関心の度合い」、b)状況の変化に伴い生じる「音の 目新しさ」、遊びの中で c)友だちや保育者とのかかわりが増加するにつれておこる音に対する「意識(メタ認知)の活性化」の3点が重要であることを示 した。そして、1)幼児と「音」との関係が、遊びの中での幼児の認知活動に関する情報となり得ること、2)幼児と「音」との関係の変化が、幼児が他の 幼児や保育者と深めてきた関係性を知るための情報となり得ることを示した。さらに、保育者が幼児の「音」への知的好奇心を喚起したり、「音」を通じた 友だちや保育者とのかかわりを促したりすることによる「音を伴う表現を“音を介した表現”へと発展させるための援助や環境構成の可能性」を示唆した。

キーワード:音、表現、遊び、知的好奇心、認知過程

自閉症児の音楽的行動の変容
─幼稚園における個別指導の実践を通して─

谷村 宏子

【要 旨】 幼稚園では平成19年度より特別支援教育が本格的に導入され、自閉症児をはじめ支援を必要とする子どもたちに対する個別指導が求められてい る。現在のところ、生活面に関する支援体制は充実してきているが、個別の指導内容に関しては手探りの状態である。本論においては、幼稚園での好きな遊 びの時間帯に4歳の自閉症男児を対象に、個別指導として音楽療法的視点による活動を月に2~3回約10カ月間行ってきた経過について報告するものである。個 別指導では、歌詞と擬音の部分に分かれて筆者と楽器での応答的なやり取りを経験することから、クラスの音楽的活動へ参加することを目標とした。A児の顕 著な変容のきっかけは、民族楽器カリンバの音と触覚刺激の心地よさであった。その後、楽器を演奏することへの楽しさと自信からリズム打ちによる応答に 発展し、さらに、歌うこと、身体表現など音楽的行動の変容をもたらせた。自閉症など発達障害児が主体的に取り組める音楽的活動として、楽器および教材 の選択の問題、および心理的なアプローチの方法について考察する。

キーワード:個別指導、音楽的行動、自閉症児、コミュニケーション、 音楽療法的視点